2022年04月11日

JR西日本、閑散線区の収支状況を公開

JR西日本は今日、管内の閑散線区の収支状況の資料を公開しました。
この間、山間部の閑散路線での存廃論議が活発になってきましたが、コロナ禍で旅客減少が相次ぎ「(人口減少等により)10年先と予想していた事態がいま起こっている状態」ともいわれています。今回、JR西日本としては、利用状況の情報開示をおこなうことで、地域公共交通機関としての役割の見直しの議論が高まることを期待しての発表とみられます。

今回開示の対象となったのは、「輸送密度」が2,000人/日未満の路線です。輸送密度とは「キロ1kmあたりの1日平均旅客輸送人員」のことで、旧国鉄では4,000人を下回ると存廃論議が行われる前提となっていた数値です。民営化されJRになって以降は都市部の高収益化やコスト削減、事業の複合化なども進み、4,000人未満でも存続できている路線が多くなっていますが、コロナ禍でJR各社とも赤字に落ち込んでおり、都市部の黒字で地方の赤字を穴埋めすること自体が困難になってきています。

さて、和歌山県内ではきのくに線の白浜-新宮間がその開示の対象となっています。

2017年から2019年の3年間の平均の数値が発表されており、経営実績を見ますと・・・
 収支率 19.0%
 営業係数 525(収入100円を得るのに525円の費用がかかっている)
 営業収入 6.7億円
 営業費用 35.4億円
 赤字額 28.6億円
 輸送密度は1987年の4123人が2019年に1085人と約1/4に減少

2018年から2020年の3年間平均では、2020年度のコロナ禍による減収が含まれるためさらに悪化します。
 収支率 15.5%
 営業係数 647(収入100円を得るのに647円の費用がかかる)
 営業収入 5.4億円
 営業費用 34.7億円
 赤字額 29.7億円
 輸送密度は1987年の4123人が2020年に608人と約1/7に減少

ちなみにここには管理費は含まれていませんので、管理費を含むとさらに悪化するとみられます。

単年度赤字額が30億円近くとなっていますが、近年の新型車両の価格が1両1~2億円(仕様や製造車両数により大きく異なりますが)といわれていますので、ざっくりいうと6両編成の特急電車が2本半程度製造できる額くらい、とお考えいただけると如何に大きな額かがご想像いただけるかと思います。

もちろん、区間ごとの収支が巨額の赤字だからといってすぐに存廃の議論につながるわけではなく、今日の和歌山県知事の記者会見でも「鉄道はネットワークを形成しているため、一部区間だけ取り出しての議論は適さない」という趣旨の発言があったようですし、国土交通省が3月に開いた地方の公共交通の在り方を探る研究会でも同様の意見が出ていたようです。

JR西日本和歌山支社ではこの区間に新型車両を投入しICカードを利用可能にしたほか、サイクルトレイン事業を開始し、乗客が漸増傾向に転じているとの報道もあり、決して手をこまねいているわけではありません。
しかし、高速道路の延伸(しかも新直轄区間で無料通行可能)、沿線の少子化の進展で、利用者数がさらに減ることは容易に想像できます。
また、管理人が実際に南紀地域のある自治体の方に聞いた話では「出張でも行き先によっては鉄道よりも公用車のほうが精算旅費が安くなるため、鉄道利用が許可されないことがある」そうで、行政も財政が厳しいなか、なかなか鉄道の利用喚起にはつなげられない事情もある模様です。

和歌山県としては、今回の発表も受けて、利用促進策をさらに進めたいということのようですが、(コロナ禍が落ち着く前提ですが)移動の際には鉄道を積極的に利用するインセンティブをどう付与できるかもカギになりそうです。

【参考】JR西日本の発表資料(PDF)
https://www.westjr.co.jp/press/article/items/220411_02_local.pdf
https://www.westjr.co.jp/press/article/items/220411_02_sankou.pdf  
Posted by わかやま小町 at 23:04Comments(0)和歌山交通ニュース